帰れない森 神末家綺談5
「わたしは決めていたよ。一族の歴史と、おまえの出自を知ったときからずっと、おまえの願いを叶えようと」
悟ったのだ。自分はそのために、瑞の願いを叶えるために生まれてきたのだと。
不自由な宿命を負って生まれたのも。
戦争で命を散らさず生きてきたのも。
すべてはそのため。このときのため。
「わたしはそれに気づけたことで、人生に意味を見出せたんだよ、瑞」
救われていたのは、穂積のほうだったのだ。
「伊吹がすべてを知ったとき・・・きっとあの子もわたしと同じことを思うだろう」
穂積は確信している。子どもだ。まだ幼い。それでも、あの子は。
「別れよりもつらい未来が待っている。それを回避するために、このまま平穏にお役目として瑞と生きていく選択肢もある。それでもあの子は、瑞の願いを叶えてやれと、わたしに言う。きっとだ」
瑞の瞳が、まっすぐに穂積の目を射抜く。
「・・・なぜだ、穂積。つらいなら逃げてもいい。俺のために、苦しむ必要なんてない。一族の歴史が覆る。おまえたちが代々積み上げてきたもの、そのすべてが失われる。俺の願いはが叶えば、間違いなくそうなる。それでもおまえは、伊吹は、俺の願いを叶えようというのか。なぜだ」
「簡単だ。おまえのことが大好きで、大切だからだ」
瑞のためなら、傷ついたって構わない。そう、思っているからだ。
作品名:帰れない森 神末家綺談5 作家名:ひなた眞白