帰れない森 神末家綺談5
瑞は泣いているのかもしれなかった。抱え込んだ頭が熱い。声を殺して震えているその背中を、ありったけの思いをこめてさする。
ああ、こうやって願ったことが昔にもあった。名前をつけたときだ。
どうか悲しみに暮れることがないように。どうかいつのときも、彼に幸福が降るようにと。
「一緒に待とう。伊吹が帰ってくるのを」
頷く気配を感じた。
いじらしく、この不器用な魂を愛おしく思った。
そしてやっぱり、穂積は繰り返し反芻するのだ。
何があっても、この子の願いを叶えてやろうと。
そのために自分は生まれた。
そのために伊吹は、この時代で瑞に出会った。
それは宿命であり、必然だ。
ならばもう、何も恐れまい。
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作品名:帰れない森 神末家綺談5 作家名:ひなた眞白