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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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帰れない森 神末家綺談5

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「思えばおまえとの日々は、本当に子育てだったなあ」

懐かしい。穂積は思い出しながらくつくつと笑う。

「長い時代を流れた魂だけあり、老成していて知識は豊富だった。しかし人間らしい感情はない。他者と心を交わすための言葉も知らぬ。皮肉と意地悪ばかりだったし」

仕方ないだろう、と瑞は苦笑する。

「生まれたての、人間だったのだから」
「なりはこんな大人だったのにな・・・中身は世間知らずのワガママ偏屈ジジイだった」

それが少しずつ少しずつ、穂積との心のやりとりを通し、変わっていった。優しさを感じるようになった。他人の思いに気づけるようになった。そしていま、伊吹との関係のなかで、より人間らしくなった。強さと弱さが表裏一体であることを知り、優しさゆえに思い悩み、真摯であるがゆえに痛みを感じるようになった。

「・・・偏屈ジジイのおまえに、わたしは名前をつけた。めでたいもの、清らかで美しいものという意味をこめて。雨水の化身であるおまえに、ぴったりの名前だと思った」
「そうだったなあ。おまえが名づけてくれたのだっけ」

瑞が笑う。柔らかな笑顔だった。こんな笑顔を見せるようになったのも、最近だと穂積は思う。

「名前を呼ばれたとき、嬉しかったなあ。俺は・・・・・・名前というものを持ったことがなかったから」

遠い遠い平安の世。まだ瑞が「人間」であったころ。彼には、名前がなかったのだ。

「願いをこめて自分を慈しんでくれるものがある。それだけで、何も怖くないと思った。おまえのために、もらった命で精一杯生きようと、思った・・・」

瑞の言葉が静かに夜にとけていく。

「なのにおまえと来たら・・・俺を使役するどころか、式神としての役割を求めてこなかった。しまいには・・・・・・願いを叶えてやるときたもんだ。おかしな主を持ってしまったと、俺は心底呆れたものだ」