帰れない森 神末家綺談5
もどかしくて、たまらない。
「紫暮さん、俺・・・」
「大丈夫かい」
「こんなに・・・苦しい。なのに、やめられない。いまの幸せよりも、いつかくる別れの待つ未来を選んでしまう」
宿命めいたものを感じずにいられない。感情ではなく、血が、魂が伊吹にその選択を強いるのだ。これは、自分の役目だ。
だから、俯いてなんていられないのだ。
「・・・大丈夫ですよ」
「うん?」
「じいちゃんが、いるから。瑞の異変にいち早く気づけるのは、じいちゃんだと思うし、大丈夫だと思います」
だから帰りません、と続ける。瑞のそばには穂積がいる。一番の理解者であり、親友が。
「俺なんかよりよほど、瑞のことを理解しているはずだから」
縁側から欠けた三日月が見える。遠い空の下にいる瑞を思う。
挫けるな、と伊吹は念じた。
挫けるな、怖がるな。見えない不安や意地悪な運命、そんなものに負けてたまるか。
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作品名:帰れない森 神末家綺談5 作家名:ひなた眞白