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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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帰れない森 神末家綺談5

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生まれた意味



さわさわと草を揺らす風に冷たさを感じる。秋の風だ。季節が確実に移ろおうとするのは、夜に顕著に表れるものだと穂積(ほづみ)は思う。頼りない星明かりの下、縁側に座り込む瑞の隣に腰かける。電話の子機を握ったままの瑞は、伊吹との通話を終え、抜け殻のようにぼんやりしている。

「伊吹は何と言っていた?」
「・・・聞いていたのか、デバガメジジイ」

いつもと変わらない口の悪さだが、この式神が相当に参っていることは穂積にはわかっている。京都に行った伊吹と離れているいま、互いを断絶してしまう悪夢が蘇ってくることが、怖くて怖くてたまらないのだろう。

隣に座って星空を見上げてみる。儚い光が見えた。夏の夜空に比べると少し寂しい。

穂積はずっと、伊吹と瑞を見てきた。手探りですれ違ってばかりだった二人の関係が、季節とともに徐々に変わっていくのを見てきた。

「おまえは、優しい男になったなあ」

そんな言葉がついて出た。

「なんだ突然」
「わたしがおまえに再びの命を与えた頃は、こんなふうに育つなど想像もしていなかった」

再びの命。式神として実体を持たず、歴代のお役目に憑いていた魂だけの存在。それに命を吹き込み、身体と名前を与え、心と感情を授けたのは、四十年前ほど昔のことだ。

「あの頃のわたしは、この役目に反発し、一族の使命に絶望していた」

昔話が懐かしいのか、隣の瑞がかすかに笑った。懐かしそうに目を眇めて。

「そうだったなァ。おまえは、悲観していたっけ。戦争で命を失っていく友を見送ることしかできない自分に、価値がないと。一族のためだけに生きて縛られる人生を悲観し、だからといって現状を変えようとするでもなく、ただただ諦めていた。あの頃の穂積は本当に鬱陶しかったな」