帰れない森 神末家綺談5
「あの待って・・・瑞、」
『なに』
「・・・俺は大丈夫だから。ありがとう」
あの夢の意味などわからないけど。
だけど、一緒に生きると決めた以上、どんな未来が待っていても、たとえばあの夢のような結末しか用意されていないとしても、それでも――受け入れたいのだ。
『・・・おやすみ』
優しい声とともに電話が切れる。そっと受話器を戻して、伊吹は息を吸った。
(大丈夫)
大丈夫。大丈夫。そう言い聞かせているうちに、また不安に襲われる。心細くてくじけてしまいそうになる。
「伊吹くん」
呼びかけられて振り向くと、薄暗い廊下に紫暮が立っていた。
「・・・電話が鳴っていた?」
「すみません・・・勝手に取りました」
「それは構わないんだけど・・・瑞かい」
「はい」
「そう」
少し話そうか、と彼は言った。涙のあとがばれてしまったのか。それとも青ざめた表情のせいか。
紫暮の部屋の明かりの下に座ると、ほっとした。文机の上にはレポート用紙やプリントが散らばり、なにやら難しそうな本がたくさん積まれている。
「こんな夜中まで勉強ですか」
「課題が山盛りあって。どうぞ」
冷たい麦茶を受け取り、一気に飲み干す。
作品名:帰れない森 神末家綺談5 作家名:ひなた眞白