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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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帰れない森 神末家綺談5

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「――はっ!!」

自分の声で目が覚めた。

「あ・・・」

起き上がると、全身に汗をかいていた。何かを握り締めていたかのように、手のひらに自分の爪のあとがついている。緊張していた全身から、ふうっと力が抜けていく。開け放たれた縁側から、涼しい風が吹き込み、伊吹を徐々に覚醒させた。

「ゆめ・・・・・・」

森の匂いが、生々しく、脳裏にべったりと張り付いている感覚。さっきまでまるであの森にいたかのようなリアルな記憶。星明かりに浮かぶ壁の時計は、深夜二時をさしている。

(・・・あれが、こわいもの?)

瑞が死んでいた。池のほとりで。そしてそばに、誰かいた。黒い影。知っている背中。その人物が振り返ろうとしたその刹那、目が覚めた。

(・・・どうしてあんな姿に、)

虚ろな瞳が、目蓋の裏から離れない。死んでいた、間違いなく。心臓がドッドッドッとせわしなく音をたてている。収まらない。汗をかいているのに、寒い。伊吹は震えていた。

紫暮の言ったとおりだ。夢が、変化した。このままだと、次はあの人物の顔が見えてしまう?

瑞を、殺した人間の顔が?

「・・・みず、」

パジャマの胸元を握り締め、口に出して彼の名を呼んだとき。

ジリリリリ、ジリリリリ、ジリリリリ・・・

電話の音が聞こえた。予感めいたものを覚え、伊吹は布団から這い出た。襖を開けて廊下を進む。玄関の大時計の脇の黒い電話が鳴っている。大きな音が屋敷中に響いているのに、不思議と怖さは感じない。冷たい受話器を耳にあてると、たちまちシンとした静寂がやってきた。

「・・・・・・もしもし、」

受話器の向こうで、息をのむような気配があった。

『・・・伊吹か?』
「なんだ・・・やっぱり瑞だ・・・そんな気がした」