帰れない森 神末家綺談5
紫暮は独自に、瑞について調べていた時期がある。どうにも手詰まりになり、これは自分の役目ではないと悟った今でも、彼への興味は尽きない。
「・・・おまえ、大丈夫か」
心配になる。受話器の向こうの沈鬱な気配を感じ取り、からかう気にはなれなかった。
『伊吹に会いたい・・・』
小さな囁きは無機質なものではなく、血肉の通った生々しい感情を伴っている。紫暮は初めて、この式神に身近な親しみを感じた。人間なのだと、唐突に思った。
彼を人間にしたのは穂積だ。
心を与え、世界の美しさを知らせ、幸福を与えた。
反対に、寂しさや悲しみを与えたのは、きっと伊吹なのだろう。
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作品名:帰れない森 神末家綺談5 作家名:ひなた眞白