ラブ・アゲイン
康夫が切り出した。
「敏恵・・・ホテルに行こうか」
「・・・・・」
そして、康夫は答えを聞かぬまま、そのまま勘定をカウンターでしてタクシーを呼んで貰った。そして携帯で近くのホテルの場所を探した。港の近くの魚市場のそばにいくつかのラブホテルがあった。迎えに来たタクシーに乗り込むと「魚市場まで」と言った。敏恵は口数が少なくなっている。康夫は黙って敏恵の手を取り握った。湿り気のある少し汗ばんだ手を二人とも握りあい離さずにいた。少し震えてるような気がしたのはお互いの緊張感がそうさせていたのであろう。
魚市場から歩いてすぐの所にホテルはあった。平日の昼間なのに車は駐車場に一杯で、「えっ、すごいね」とお互い顔を見て小さく笑った。空いてる部屋のボタンを押しエレベーターで上階へ昇る。館内には小さな耳障りのいいBGMが流れている。指定された番号の部屋のドアを開けた。
明るい室内はリゾート風のインテリアと相成って、しゃれた雰囲気を作り出していた。白い天蓋が取り付けられたバリ風のキングサイズベッド。チーク材のソファーには南国の植物が彫り込まれていた。クッションはバナナの葉やハイビスカスがデザインされている。そして天井には4つの羽を持ったファンがゆっくり廻っていた。
後から敏恵のスカートと下着が散らばる床は、重厚なヨットのデッキのようなオーク材で、部屋全体が南国ムードに溢れていた。
「ひさしぶりだね」
「やだ~、なんだか恥ずかしい」
「昔は何回もしたくせに」
「忘れてたわ」
康夫は敏恵の腰に手を回し抱き寄せ、腰同士を密着させあった。お互い反るような姿勢で顔の距離を少し取り、見つめ合った。
「変わってないね」
「覚えてるの?」
「どうかな、変わったの?」
康夫は敏恵の顔を引き寄せると3年ぶりのキスをした。
天井のファンが廻る音、港が見える静かな部屋、再会の二人のキスは長く長く続いた。
気恥ずかしさを一枚一枚、着ているものと一緒に脱いで行く。肌が触れ合う度にお互いの温かさを感じ取る。肌と肌が触れ合う感触というのは、どんな高級なシルクとも違う心地良さだ。肌という生地はぬくもりを縫い込んだ特別な身に纏うもので、最後の心を隠すベールでもある。衣擦れの音ならぬ心のふれあう音が部屋の中に溢れる頃、二人はベッドの中で溶け合い始めた。
なだらかなエクスタシーが急激なカーブを描き、頂点に達した時、二人の空白の3年間は終わり、また新しいスタートとなった。
皺になったシーツが波のように描き出され、荒い息が天井ファンの音と重なる。やがて波音は消え、彼女が夢中で掴んだ場所は渦のようなシーツの模様が残っていた。康夫は敏恵を貪るように抱いた。