ラブ・アゲイン
大通りに出て、タクシーを拾い、海岸沿いのスパゲティ専門店でランチを取ることにした。車でしか来れないお洒落なこの店は、ほとんどの客が女性だった。
敏恵と康夫はその中で再会の乾杯をビールでした。
「康夫君、君ぃ~浮いてるよ・・・こんなところにサラリーマンが」敏恵はからかいながら、康夫の顔を覗きこんできた。
「そうだな、スーツ姿じゃ恥ずかしい」そう言って、ジャケットを脱ぐとシャツの腕をめくりネクタイを外した。
「そうそう、ズル休みは楽しくいかないと」
「敏恵はあいかわらず元気だな。持病の方はもういいのか、ほら糖尿」
「糖尿はもう治った。でも、この2年間落ち込みっぱなし、どよ~んだった」
「だろうな、そんなことがあれば。大変だったな」
「もう、それはそれは大変でした。あなたと別れてからの彼だったから」
「そういや、彼氏はいますってメールくれてたよね」
「うん、それが死んだ彼氏」
「・・・・・好きだったんだ」
「もちろん・・・でも、しょうがないよね。そういう運命だったんだもん」
運ばれてきた可愛いランチに手をつけるが、なんとなく言葉が重い。
ちょっと重たくなった雰囲気を消したのは敏恵からだった。
「何でメールくれたの?なんか、あったんでしょ?」
「いや、別に。携帯の中にまだ残ってたのを見つけて懐かしくなってさ」
「残してくれてたんだ」
「うん、なんでだろうね」
「消さない主義でしょ。いろんな女のメール。もったいないって・・今でも、私以外のメルアドもたくさんあるんじゃないの?・。」
「う、うん・・・かもね」(まずいなぁ~)
「いいのよ。ありがと~。ホントはうれしかったんだぁ。でも、あなたのことだから、心寂しくなって懐かしの私にメールくれたんでしょ。私でよかった」
「本当に喜んでくれてるの?迷惑じゃなかった?」
「どうして?」
「一度別れたから・・・」
「あらっ、そういや何で別れちゃったんだろうね私達。大喧嘩した?あなた浮気した?」
「いや、いやしてない、してない。喧嘩もしてない」
「じゃなんでだろ?・・・・まっいいか。多分、あの時はお互い飽きたんだろうね」
「鋭く言うな~。まっそんなとこにしとこう」
康夫は敏恵の明るさに、今更別れた理由を見つける事に意味はないと思った。人生の先行きは誰もわからないのが運命なのである。
それから1時間ほど敏恵と康夫はビールを空け、昔話で笑いあった。
海は照らされた太陽で輝き、穏やかな波が打ち寄せ、時折風が黒い水面を作り海上を走っていた。午後の昼下がり、3年ぶりの出会いは二人にとって、またひとつの思い出になっていた。