ラブ・アゲイン
神社の石段に座り、辺りを眺めると、どうやらここは寺町のようだ。いくつものお寺があちこち見える。初夏の日差しの中で色を濃くした緑が、街の中よりもたくさん付近に広がっていた。斜め向かいの大きなお寺から出てくる人影を見た。敏恵だった。あの歩き方、雰囲気は間違いない、昔、見慣れた敏恵の姿だった。
「おぉ~い、敏恵~」康夫は手を振った。
気づいた敏恵は別段急ぎ足で来るわけでもなく、歌舞伎の花道をゆっくり歩くように向かって来た。そして目の前まで来て、やっと笑って言った。
「久しぶり・・・よく、わかったわね。来れないかと思ってた」
手を口元に当てて笑う敏恵は、康夫が見慣れた敏恵だった。
「変わんないね」康夫が言った。
「たった3年だもん、変わるわけないじゃん。それより若くなってない?」
「ないない。微妙に老けてるかも」
「えっ、やだ~・・・やっぱりそう?」
「嘘だよ。そんな失礼なこと言うもんか。久しぶりなのに」
康夫は敏恵をつま先から頭のてっぺんまで見た。懐かしさに敏恵を一番好きだったあの時の気持ちが甦る。何で別れてしまったんだろ・・・二人の別れた理由が思い出せない。過ぎた年月はいいとこばかり残し、やな事は忘れさせてくれるものらしい。
敏恵も同じ気持ちなのだろうか、会った途端、上機嫌の微笑を浮かべていた。
「なんで、ここで会う事にしたんだ?」康夫は聞いた。
「うん・・・お墓参りして会おうと思って」
「誰の?」
「昔の彼氏」
「えっ?」
「康夫と別れた後、付き合った彼氏よ。結婚はしてなかったけどね」
「・・・・・」康夫は敏恵が出てきたお寺の方向を見た。そして
「いつ、死んじゃったの?」と聞いた。
「2年前。半年付き合って事故で死んじゃった」
「・・・・そうなんだ・・・でも、何で、ここで俺と会うの?」
「けじめよ、けじめ。もう私も他の男に移ってもいいよねと言ってきたの」
「・・・・・」
「あたしだって、あたしの人生があるんだしさ。もういいかな~って。でも、あんな別れ方すると、ずっ~と引っ張るじゃん心が・・・。で、一応これで区切りとゆ~ことで・・・お墓参りにきたのよ。そんなわけで、よろしくっ!康夫君!」
「えっ、えっ、なんだよそれ。また俺と付き合うわけ?」
「あら、そのつもりで抱きたいってメールして来たわけでしょ?」
「・・・・・まあ・・・そのようだけど・・・」
「そのよう?まっ、男はエロいからね。特にあんたは」敏恵は笑って康夫の腕に絡んできた。
「天気もいいし、また、やりなおしのデートしよっ!」
敏恵は康夫をぐいぐい引っ張るように、初夏の太陽に照らされた道を町に向かって歩き出した。
「あのさ・・・敏恵・・・敏恵、3年ぶりの再会の感動ってないのかな?」
「あるよ。感動してるよ。わくわくしてる。うれし~よ。また会えて嬉しい」
引っ張られるように歩く康夫は、なんだ昔のまんまじゃん・・と、3年の空白はなかったもののような気がして、笑えた。何で俺達別れたんだろ・・と頭の片隅によぎったがそのまま忘れる事にした。きっとこうなる運命だったんだろう。