花は流れて 続・神末家綺談4
「・・・間違ってたのか、俺」
「朋尋・・・」
「ごめん、俺・・・おまえにこんなことさせて・・・ごめんな・・・」
謝らなくていいんだという思いを込めて、伊吹は親友の手を両手で包む。憔悴している朋尋を、何とかして励ましたいと思った。
彼は真摯に向き合おうとしたのだ。他人の痛みに。苦しみに。そして自分が傷つくことさえかえりみなくなってしまったのだ。
「優しいのがだめだって、言ってる訳じゃないんだ・・・」
「・・・わかってる、」
「ごめん、俺には・・・こんなことしか、言えなくて・・・」
穂積ならば。瑞ならば。もっと上手に言えるのに。うまく言葉を使えない自分が歯がゆかった。
「朋尋の優しいとこが、俺は大好きだよ」
優しいのは、悲しみを知っているからだ。朋尋は傷つきやすい魂の持ち主で、それゆえ他人の痛みがよくわかるのだと伊吹は思う。
「朋尋と一緒に帰りたい・・・」
「うん・・・」
「彼女もわかってると思う。届いてると思うよ。それに・・・弟は、ちゃんとそばに・・・」
ふいに、ホームに足音が響いた。
「瑞・・・」
瑞が立っていた。夜の中に溶けるようにして。
「彼女が図書室で待ってる」
その声は夜風の中をまっすぐに飛び込んでくる。
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作品名:花は流れて 続・神末家綺談4 作家名:ひなた眞白