花は流れて 続・神末家綺談4
自分でも制御が利かないくらいに激昂している。それは激しい怒りだった。同時に罪悪感が伊吹を満たす。ひどいことを言っていると思う。朋尋の歪んだ表情を見るのがつらい。
死者に同情するな、情をうつすな。
朋尋の思いを踏みにじり、伊吹はそう言っているも同然なのだ。
「だから見ないふりをしろって言うのか?目の前で、手の届くそばで、泣いている人間がいても、無視して通り過ぎろっておまえは言うのかよ!それが、死んだ人間だからっていう理由だけで!?」
朋尋の目のふちが赤い。街灯に照らされた親友の表情は、見たこともないくらいに悲しそうだった。
「・・・そうじゃ、ないよ、朋尋・・・」
「だったらどうだって言うんだ!伊吹がいま言ったのはそういうことだ!違うか!?」
違わない、違わないけど・・・。
「朋尋にできることは・・・もう全部終わってるんだよ・・・」
「え・・・?」
「朋尋は無視しなかった。彼女の話を聞いてあげた。それで彼女が癒されなくとも、悲しみに耳を傾けた、それだけで十分なんだ。そこから先は、生きてる人間がどんなに願っても、干渉できない領域なんだよ。そんな簡単なこと、わからないのか?」
「俺は・・・でも、」
「朋尋が彼女の望むままそばに行ったとして、彼女それで満足すると思う?朋尋は、所詮弟の代わりなんだ。ひとは誰かの代わりになんて、なれないんだよ」
作品名:花は流れて 続・神末家綺談4 作家名:ひなた眞白