花は流れて 続・神末家綺談4
境界線の上
慎重にやらなければ、と思う伊吹の背中に緊張が走る。親友の朋尋が、こちら側を選ぶか、あちら側へと向かうのか。それは伊吹の説得にかかっているのだ。
「彼女に会って、どうするつもりなんだ?」
慎重に言葉を選んではみるが、朋尋の心にどう響いているかなんてわからない。
お役目は死に携わる者。ならば生を説くこともまたできるはずだと、瑞は言った。しかし伊吹には難しいことはできない。親友として言葉を届けることくらいしかできない。だから、真摯に気持ちを届けたいと思った。聞きかじったきれいごとではなく、伊吹自身の言葉で。
「彼女は死んでいる。朋尋は生きてる。二人が一緒になるには、同じ世界に立たなくてはいけない。死者は生き返れない、朋尋の世界には干渉できない。だったら干渉するためにはどうしたらいいと思う?朋尋が死んで彼女と同じ世界に立つしかない」
彼女の寂しさを癒すというのなら、自ら死を望まなければならないのだ。
「・・・屁理屈ばっか言うなよ。おまえに何がわかるっていうんだ!」
朋尋が吠えた。
「弟を失って、それが自分のせいで、だから償おうとして自殺したんだ!そうまでしたのに癒されない。いつまで苦しめばいい?終わりがないんだ。そんなひとの気持ちに寄り添うことを、生きているとか死んでいるとか、変な理屈で納得させようとするなよ!悲しいんだ、つらいんだ、生きていようが死んでいようが関係ないだろ!」
「関係ある!朋尋はわかってないよ!」
負けじと伊吹も言い返す。いま負けたら終わりだ。二度と朋尋を取り戻せない。
「悲しかったのは誰?寂しかったのは誰?彼女であって朋尋じゃない!間違えてる!寂しさも悲しみも彼女のものだよ!朋尋のものじゃない!それを自分のことのように感じて語る資格は、生きてる人間にはないよ!朋尋は今、他人の感情に引きずられて境界を越えようとしているんだよ!?」
作品名:花は流れて 続・神末家綺談4 作家名:ひなた眞白