花は流れて 続・神末家綺談4
「彼女と弟に何があったか、俺は全部知ってるよ、朋尋」
「・・・どうして、」
弟のことまで。彼女が漏らした秘密の端。失った弟の話を、なぜ部外者の伊吹が知っているのだ。
「この本が教えてくれた」
「・・・そんなことが」
「できるよ。俺はお役目の血を引く者。死者の言葉や記憶を聞いたり視ることもできる」
「・・・・・・」
「さっきの続きになるけども、寄贈元はわかっても、彼女がどこで亡くなったかまではわからなかった。過去の新聞記事でも調べない限り無理だ。もう図書館も役所も閉まっていて調べようがなかった。でも、彼が教えてくれたんだ」
彼?
「弟だよ、彼女の。朋尋の居場所へと俺を導いてくれたんだ」
なんだって?
「・・・うそだ、」
「うそじゃない。彼が全部教えてくれたんだ。お姉さんは悲しみと後悔に捕われて気づけずにいる。弟は、いつもそばにいたのに」
伊吹の言葉がなまぬるい空気にとけて、夏の名残に消えていく。いつもの親友とは違う。言い聞かせ、諭すことで、心の澱をとかそうとするような、そんな話し方だった。
「彼は行くなと言っていた。悲しみにのまれてはいけない。姉と同じようになってはいけないと」
「・・・だけど、」
彼女はこの自分を求めている。寂しさの中で、弟を失った後悔の中でもがいている。
「彼女のとこには行かせない。瑞はいま、弟を連れて彼女を説得しに行ってるんだ」
「・・・どこへ、」
「学校だよ。約束の場所へいく前に、朋尋の返事を確認しに来るだろうって、俺たちは予想してる。きっと瑞が彼女の目を覚まさせてくれる。だから俺は、」
親友の厳しい決意にみちた視線が、朋尋を射抜く。
「俺は、朋尋の目を覚まさせるために来た」
作品名:花は流れて 続・神末家綺談4 作家名:ひなた眞白