花は流れて 続・神末家綺談4
目を覚ませ
駅のホームには誰もいない。小さな田舎の駅だ。隣町へ向かう駅だが、今夜は高校生やサラリーマンの姿もない。りりり、と草むらから虫の鳴き声が聞こえてくる。ベンチに座り、朋尋は一人電車を待っていた。
彼女が待っている。あの河で。寂しさを抱え、後悔と自責の念で自ら命を絶ってなお、救われることなく孤独の中をさ迷い続けている。
(行かないと・・・早く・・・)
彼女に会える場所。朋尋は一人、そこに向かおうとしていた。もうすぐ電車が来る。あの場所で、きっと彼女に会える。会ってようやく、彼女の魂を癒すことができるのだ。
「・・・あ、」
足音に顔を上げた朋尋は、そこに信じられないものをみた。
「伊吹・・・」
それは戸惑うような表情を浮かべた親友の姿だった。どうして、と朋尋は驚きを隠せない。
「朋尋、行っちゃ行けない」
「どうして・・・ここだってわかった?」
誰にも告げずにきたはずだ。邂逅の場所は朋尋と彼女しかしらないはずだ。図書室に立ち寄ってきたが、やりとりはすべて消されていた。彼女の「会いたい」という返事以外は。
「この本が導いてくれた」
伊吹が取り出したのは、あの本だった。朋尋が書庫で見つけた、ふるぼけた一冊。どうしても気になって、開かずにはいられなかった本。彼女を見つけた本。
「寄贈元の蔵書印は、隣町の図書館になってる。増改築の際に蔵書整理をして、近隣の小学校に配布したんだろうって瑞は言う」
瑞・・・。彼も噛んでいるのか。すべてお見通しというわけだ。
作品名:花は流れて 続・神末家綺談4 作家名:ひなた眞白