花は流れて 続・神末家綺談4
「あの顔みても、おまえは後悔などと言うのか?」
伊吹に問うてやる。黙って首を振る伊吹の顔に、もう悲壮感はなかった。
「行こう、バス来るぞ」
「うん。瑞、いってきます」
「気をつけてな」
瑞は、並んで駆け出す二人を見送る。ぐんぐん小さくなる背中を見て思う。
朋尋は、もう大丈夫だろう。隣に伊吹がいるのだから。
「わたしがいぬまに、いろいろあったみたいだね」
声をかけられ振り向けば、穂積が立っている。柔らかな表情を浮かべて。
「なんだ、おまえ戻っていたのか」
「昨夜遅くにね。どうしたね瑞、寂しそうな背中を晒して」
そんなつもりはない、と否定しようとして、寂しいと感じている自分に気づく。まったく穂積にはかなわない。見透かされている。正直な思いを伝えてみようか。
「伊吹と、あんなふうに出会いたかったな。生きてみたかった」
友人として出会っていたら、どうだっただろう。朋尋の隣にいる伊吹を見て、そんな想像を巡らせたのだ。
「同じ時代を、同じものを見て・・・生きてみたかった・・・」
ああ、寂しいのだ。穂積の言うとおり、寂しい。友だちとして、あるいは家族として出会っていれば。人間として。生きている人間として。
「そうやって生きる道はあるのに、おまえはそれでも、願いを叶えてほしいか?」
穂積に問われ、思わず睨みつける。忘れかけていた本性に火がついたような感覚。
作品名:花は流れて 続・神末家綺談4 作家名:ひなた眞白