花は流れて 続・神末家綺談4
伊吹は、味方なのだ。自分の存在を惜しみ、尊んでくれる。そんな人間がこんな近くにいてくれることが、こんなにも心強い。失望など、するものか。
世界中の誰が敵に回ってもいい。
伊吹が穂積のような力を有していなくてもいい。この先、周りの期待に添えぬお役目となってもいい。役目を投げ出す無責任な大人になっても、かまうものか。たとえそうなったとしても。
「俺は嫌わない。失望なンてしない」
この子どもの優しさを知っている。魂の温かさを知っている。それを自分に向けられたときの喜びを知っている。
随分やきが回ったことだと自嘲する。この子どもの、底抜けの間抜けさが、認識の甘さが、瑞には心底心地よいのだ。
「約束する」
小指を突き出す。絡める。ぎゅうと結ばる指から、力がわいてくるような気がする。
「・・・うん、」
指きりの約束。こんな子どもじみた小さなことでも、伊吹にとっては大きな支えとなるのだということも、瑞は知っている。
「ありがとう、」
へらりと笑う頼りない表情に安堵する。いつだって、瑞をほっとさせるのは笑っている伊吹なのだった。
「あ、朋尋・・・」
金物屋の角を曲がって、朋尋がやってくる。
「伊吹、おはよう!」
いつもの笑顔で。大きく手を振りながら。元気そうだ。少しだけ憂いの残る表情は、別れを経験して、昨日よりも少しだけ大人になったからだろう。それでも、駆け寄ってきた朋尋の目は、もう彼方を見てはいない。まっすぐに、いまを生きようとする目だった。
作品名:花は流れて 続・神末家綺談4 作家名:ひなた眞白