花は流れて 続・神末家綺談4
伊吹の視線がまっすぐに瑞の瞳に飛び込んでくる。秋に染まりつつある山から吹く風が、慰めるように伊吹の髪を揺らすのが見えた。
「・・・伊吹は、おまえはもっと」
視線をそらして、瑞は続ける。
「もっともっと、傲慢でいい」
あまりに無垢だ。あまりに繊細だ。容易く他人のために傷つく。こんなふうにして。
「もっとわがままでいいし、自分本位でいい」
「・・・瑞、」
「心配だよ、俺は。周りの期待に応えようと必死なおまえが。穂積も、清香も、朋尋も、もっとおまえが振り回してやればいいンだ。あの馬鹿紫暮(しぐれ)なンか、アゴでこきつかってぼろ雑巾にしてやりゃいい。いい子チャンでいるな。ただでさえ重圧のある役目を継ごうというのだから。もっと偉そうにしていろよ」
弱気なのが悪いというのではないし、かといって傲慢なのがよいというわけでもない。しかしあまりにバランスが悪い。伊吹は他人に気を遣いすぎる。
「だって・・・わがまま言ったら嫌われる・・・」
「誰にだよ。そんなやつは俺が殴っ・・・」
「・・・瑞に」
伊吹からの返答に思わず咳き込んだ。あまりの不意打ちに、思わず口元を手で覆う。
「誰が俺の話を・・・」
「瑞に失望されたくない、瑞に嫌われたくない」
穂積でも、須丸の連中でもなく?
作品名:花は流れて 続・神末家綺談4 作家名:ひなた眞白