花は流れて 続・神末家綺談4
「美月さん、」
向こう側の気配が、音もなく消えていくのがわかった。
「美月さん・・・」
行ってしまった。ここにはもう、朋尋しかいない。会えないのだ。もう二度と。
朋尋は立ち尽くす。いまやっと、伊吹が言っていた意味を本当の意味で理解した。
絶対的な境界線を。
必然的な別離を。
これが生と死だ。どんなに希っても、もう彼女と同じ時間軸に立つことは二度とないし、同じ景色を見ることもないのだ。この書架が境界だった。書架を隔ててこんなに近くにいたのに、こちらとあちらは別の世界だった。到底届かない場所だったのだ。
打ちひしがれて、書架から手を離したそのとき。
「・・・あ、」
背中に、トンと何かが当たった。そして朋尋の手に、静かに触れるもの。ぬくもり。やわらかな指の感触。
――友だちになってくれて、ありがとう。さようなら、朋尋くん・・・
しん、と沈黙が落ちる。背中に触れていたものが、静かに遠ざかる。彼女だったのだろうか。刹那に触れた、最初で最後の邂逅。
「これ・・・」
手にあるものを見ると、一輪のコスモスだった。
作品名:花は流れて 続・神末家綺談4 作家名:ひなた眞白