花は流れて 続・神末家綺談4
「・・・美月(みづき)さん?」
名前を呼んでみる。返答はないが、かすかに衣擦れのような音がした。
「いるんでしょう?」
書架の間を歩く。気配を追うが、書架の間を見て回っても彼女は見えない。朋尋から逃げるように離れていく。
「話そう」
立ち止まって、書架ごしの気配に語り返る。
――ごめんね・・・合わせる顔、ないんだ
向こう側から、聞こえた。確かに。か細い、少女の声。極限までひそめた囁きだ。
「・・・いるの?」
書架に並ぶ本の背表紙に両手を触れる。この向こう側に、彼女はいるんだ。
――朋尋くん、ごめんね
「謝らないで」
――わたしの悲しみに、あなたをまきこんでしまった
「違う。俺は自分の意思で美月さんに関わった。助けたいと思ったのも、美月さんのそばに行こうって思ったのも、俺の意思だ」
それは間違いない。彼女が悪いのではない。
「・・・だけど、それって違うんだよね。友だちに言われた。あなたを余計に悲しませることになるんだって。あなたが俺をまきこんだんじゃないよ。俺のお節介があなたをまきこんだんだ」
――・・・お節介と、そのお友だちは言った?
「優しいからだって・・・」
――そうでしょう?わたしもそう思う。朋尋くんの優しさはわたしをちゃんと救ってくれたのよ。孤独や冷たさから
作品名:花は流れて 続・神末家綺談4 作家名:ひなた眞白