花は流れて 神末家綺談4
「弟が死んでしまって・・・ずっと帰ってくるのを待っているんだって。今も、一人で」
朋尋の声が遠い。音の発信源を探そうとするが、空間まで歪んで見える。何だこれは。朋尋の言葉に、何かが反応している。
(あれ、だ!)
彼の机の上に、朋尋には似つかわしくないものがのっており、伊吹は視線をそらせなくなる。何だろう、おかしな違和感。
「だから、俺行ってあげなくちゃ・・・」
「・・・だめ!」
朋尋が立ち上がる。耳鳴りがひどくなる。立っていられない伊吹など目に入っていないかのように。
「だめだよ朋尋・・・!行くなってば!」
耳鳴りがひどくなる。床にうずくまり、必死に耐える。朋尋がふらふらと部屋を出て行くのを、伊吹は止めることができなかった。
「っ・・・!」
どれくらい時間が経っただろう。音が消え、空間の歪みが徐々に和らいでいった。
「朋尋・・・」
起き上がり、机の上のそれを手に取る。それは本だった。分厚くて、古い。表紙にカバーはなく、ざらりとした緑の布張りだ。タイトルもない。中身を見ると、かび臭く、小さな文字がびっしりと並んでいた。
作品名:花は流れて 神末家綺談4 作家名:ひなた眞白