花は流れて 神末家綺談4
「落ち着け」
冷静な瑞にぴしゃりと告げられ、伊吹は黙り込む。瑞の長い指先が、そこにある意思を読み取るかのように短い文章の上をなぞるように空を切る。
「あの女が誰で、なんで小学校なんかをうろついているかなんて、俺はわからん」
「そんな怪談、ないよ。旧校舎の怖い話ならいっぱいあるけど」
この新校舎は、ほんの十年ほど前に新設されているはずだ。そこに怪談、というのはそぐわない気がした。トイレだってまだ綺麗で、花子さんの出る気配すらないのに。
「とにかく、あの女が何なのか俺は調べてみる。伊吹は朋尋に話を聞いてみろ。<あの場所>とかいうのがどこかわかれば・・・」
「やってみるけど・・・もし二人が出会ったら、どうなるの?」
どうかな、と瑞は苦虫をつぶしたような顔で呟いた。
「あの女の目的が何なのかはわからンが、出会っちゃいけない二人なのは確かだ」
瑞の言葉が闇に反響する。出会っちゃいけない二人。その響きが、ものすごく怖かった。
「だって、相手は死んでいるのに」
朋尋のことを思う。快活な親友の笑顔が蘇る。
出会ってしまったら取り返しがつかない、朋尋が遠くに行ってしまうのではないか。
そんな不安がべったりと背中に張り付き離れない。
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作品名:花は流れて 神末家綺談4 作家名:ひなた眞白