花は流れて 神末家綺談4
「・・・それから、毎日やりとりをしてる」
「だめだよ朋尋、こんなことやめないと・・・」
話を聞いた伊吹の本能が、これはとても危険な行為だということを告げていた。机上文通が危険だというのではない。朋尋に返事を書いている相手が問題なのだ。すでに五時間目の授業は終了し、校内には下校時刻を告げるチャイムが鳴り響いていた。
「だってこれ・・・たぶん、生きてるひとじゃないよ、朋尋・・・」
「寂しいと、言ってるんだ」
「え?」
「何かとてもつらいことがあって、寂しくて悲しくてどうしようもないんだって。俺からの返事をずっと心待ちにしてくれているんだ」
しん、と書庫に沈黙が落ちた。これは、だめだ。朋尋の心が、もう半分以上向こう側に傾いてしまっている。
「・・・帰ろう!」
「でも、俺このひとに」
「いいから早くッ!」
無理やりに朋尋の手を引っ張って、伊吹は書庫から出る。
「・・・死んでるのか?あの人は」
「・・・うん」
「伊吹には、わかるんだな」
「・・・返事をしちゃいけなかったんだよ。あれはね朋尋、あの世からの言葉なんだよ」
向こう側から届いたメッセージだ。文字には生気が感じられない。死んでいる文字だ。言葉はあたたかくとも、その筆跡の冷たさは死者の気配と同じだった
「そうか・・・でも、やめられないんだ・・・」
朋尋がぽつりという。だめだ、これはとりつかれている。このままでは、朋尋の心ごと、ごっそりと持っていかれてしまう。
作品名:花は流れて 神末家綺談4 作家名:ひなた眞白