風の分岐
畳みに寝そべってぐったりしている伊吹に本気で感心しながら、瑞はページをめくっていく。
「なんだこれ、料理のレシピ?すごいな、ネタがつきない」
瑞は楽しい気持ちでページをめくる。よくもまあ考え付くものだが、そこは小学生。毎日は続かないのだろう、ときには野良猫のスケッチ(らしきもの。瑞にはブタの化け物にしか見えない)だとか、今日食べたお菓子リストだとか、自分の名前の練習だとか、アニメの感想だとか、微笑ましいページもあった。
「ほう、作文もある」
「あ、それは別に読まなくていいからとばして」
「何でだ」
「いいから。それはとばせば」
起き上がった伊吹がページをめくろうとするので、瑞は怪しみブロックする。
「邪魔すンな」
「おもしろくないからいいの!」
「友だちのこと、だって?ほう」
『ぼくには大事な友だちがたくさんいます。
一緒にゲームをしたり、ドッヂボールをしたり、夏休みにはおとまり会もしました。大きくなってもみんなで遊びたいなあと思います。ずっとみんなと友だちでいたいです』
「フーン」
「もういいから!」
『いつかお別れする友だちがいるかもしれないけど、ぼくは、その友だちのことも大事にしたいです。悲しいときはそばにいて、楽しいときは一緒に笑いたいです。それで、お別れする日が来ても、笑顔でさよならできるような自分でいたいです』
「――おまえこれ、」
「もう返してよ、じいちゃんにコメント書いてもらうから!」
伊吹がノートを乱暴に奪って走り去る。
お別れする日が来ても、笑顔でさよならできるような自分でいたいです――
恥ずかしいやつめ。文章に残して、一番見られたくない本人に見られるなんて。
恥ずかしくて笑えてくる。胸が温かくなったなんて、口が裂けても絶対に言わないけれど。
瑞は縁側からつっかけを引っ掛けて庭に出た。夕暮れの匂いが一層濃くなる。庭から山際に向かい、鬱蒼とした雑木林を進んでいけば、神末神社の大鳥居に行き着いた。