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短編集『ホッとする話』

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 黒スイカの継ぎ目から無色のガスと正体はわからないが匂いも漏れ始めた。テディは咄嗟に口と鼻を塞ぐが嗅覚は敏感に反応する。刺激臭ではなく、むしろ昔を思わせるような甘い匂いだ。文民のテディは有毒ガスの匂いがどんなものかわからない。中には甘い匂いもあるかもしれない。そう考えるとますます黒スイカに近付けない。時間は相変わらず減ってゆく――。

 テディは考えた。
 もしこれが爆発したらどうしよう。自分はもちろん、ここの周辺の人も間違いなく巻き込まれるだろう。そしたら自分だけでなく、家族も猛烈な批難を受けるにちがいない。ましてや父は軍の開発研究員だ。これがテロであっても事故であっても世界中に注目されるだろうし、どのみち自分とその一族は生きていける術が無いことを覚悟した。

   7:00

 時計は無情に進み続ける――

 * * *

 タイマーは5分を切った。黒スイカは再びピピピッと電子音を出した。

 何を考えても希望が持てるような考えが思い付かない。時間は早くも遅くもならないがしっかりとゼロというゴールに向けて走り続けている。冷静に状況を判断する能力はとうとう限界に達し、テディは暑くもないのにテディは上着を脱いだ。
「あーーっ、もうダメだ」
 テディは上着を頭にかぶって目を伏せた。逃げ道はない。怖くてボタンを押す勇気などパニックで完全に頭の外だ。生まれてから今までの自分が走馬灯のように甦り自分の頭を巡り巡った。お父さんお母さんごめんなさい。もっとピザ食っときゃ良かった、結婚もしてみたかった、そういやおばあちゃんに「日曜はちゃんと教会に行きなさい」と口が酸っぱくなるほど言われた事を思い出した。こんなことなら言うこと聞いとけばよかった、これからちゃんと教会に行きます。だから今回ばかりは許して下さい!テディはどっちの向きにいるかわからない神に祈った。

   00:04, 00:03, 
      00:02, 00:01……

「えーい、ままよ!」テディは目を閉じ力の限り歯を食い縛った。

   ピーーーーッ

 30分前に聞いた電子音が小さく鳴ると、室内は静まり返り、緑のランプは消え、変わりに赤のランプが小刻みに点滅し、継ぎ目から漏れ出るガスも止まっていた――。