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短編集『ホッとする話』

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 市立東宮高校の二年生、里中毬奈(さとなか まりな)は図書委員である。もともと本には興味があったので委員会の仕事を楽しんでいるのだが、各書棚を整理していた時にたまたまタロット占いの本と出会った。
「本からカードたちが飛び出して来るのが見えた」
毬奈はこの本と出会った時のことを依頼者に説明することがしばしばあるように、タロット占いとの出会いはそれだけ衝撃的なものだった。
 22枚のカードたちが示す意味と絵の持つ神秘に惹き込まれ、ひとたび占いをはじめるとこれが驚くほどに的中し、すっかりとりこになった。やがて彼女は  
「毬奈の占いは百発百中」
「哲学の書棚にいる預言者」
などと校内でも口コミで噂され、図書室を知りつくす彼女は誰も来ないこの場所を自分の場所と設定して依頼があれば占ってあげるようになった。もちろん、この場所も占いで最も適した場所を設定したまでのことだ。

「また、結果報告するね」
「うん」
 スッキリした表情で依頼者を見送るのが毬奈の至福のときだ。今日もひとり、喜んで去ってゆく姿を見て心を踊らせていた。
 毬奈が持つタロットは未来への道筋を示す。それが良いものであっても、または良くないものであっても――。魂を持った22枚のカードは未来を知りたい者の希望に関係なくただそれ自身が知っている未来を、カードを扱う毬奈の手を介して語ってくれる。信じるか信じないかは依頼者の自由であるが、これが不思議なくらいに的中している。
 毬奈は占うたびに依頼者から質問されるが
「どうして当たるかはあたしにもわからない」
と決まって答える。誰もがその言葉を信じていないようだが、これは毬奈の正直な意見である。
「運命を知るのは自分じゃない。カードが知っているのよ」
 カードに耳を傾け、カードたちの総意を代弁する――。毬奈は、自分のやっていることはそういうものだと自分で位置付けていた。


「ああっ、しまった……」
 毬奈は時計を見ると、占いに興じすぎて待ち合わせの時間をすっかり過ぎていることに気付いた。自分の世界に入ると先のことを忘れてしまう――、いけない癖だ。毬奈はさっさと図書室の掃除を済ませて部屋の鍵を閉めると、元々静かな図書室は光が消えてさらに静かになった。