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短編集『ホッとする話』

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 卒園生は大きな声で歌を歌いきると、鳴り止まない拍手の中両腕をしっかり振って私の前を通り過ぎた。保育器に長らく入っていたわが子は、胸を張って誇らしげに腕を振って歩いている。私は立ったまま目に涙をいっぱ いに貯めて、最後まで拍手を続けた――。

* * *

 それから私は、片手に記念品が入った紙 袋、もう片方の手でわが子の手を引いて家までの道を歩いた。一方的にこれまでの出来事を話すのを聞くだけで私は癒やされた。時には困難な時期もあったけど、それも気になら なかった。

 自宅に着いて門扉を開けて、横にある郵便受けを確認した。中には一通の葉書が届いて いた。
「この赤ちゃんだれ?」
私が見ようとすると先にひょいと拾い上げるわが子。葉書の写真に興味を惹いたよう だ。
「どれどれ――」 小さな手から葉書を取り上げてみた。挨拶状であることを確認して宛先を見るのにふと裏を返した。
「ほぉ――」
私は思わず声を漏らして、もう一度裏を返して写真を見た。

 葉書の写真には瓜二つの女の赤ちゃんが、 同じ笑顔でこちらを見つめている。

「お元気ですか?双子の子は双子なんて不思議なものですね。大変ですけど楽しくやって ます」

 写真に母の姿は写っていないが、二人の赤ちゃんの中に確かな面影を感じると、なぜか気持ちが落ち着いて行くのを手に取るように感じた。並んだ二つの笑顔、それらは天使のように見えた――。

    祝福  おわり