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短編集『ホッとする話』

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 ゴンドラは頂点に近づく、何度乗ってもこの瞬間は緊張し、テンションが上がる。人である以上頂を望むのは本能なのだろうか?とにかくこの一瞬は気持ちがいい。
「そうですか、実の親御さんは喜ばれたでしょう?」
「はい」私は元気な返事をした「初孫なんです。母は自分の事のように喜んでくれました」
 ゴンドラがピークを過ぎた。登れば下る、当然の摂理である。いつも「もうちょっとだけこの時が止まって欲しい」と思うがそれは叶わぬ事だ。
「ただ……」
「ただ……?」
 目の前のお父さんを見て、病院にいる自分の父がだぶって見えた。
「だーぶーぶ?」
 突然聞こえた葵ちゃんの幼児ことば、「大丈夫?」と心配された。まるで心を読まれたかのように私は話を続けた。
「母は良いのですが父の状態がよくないのです」
「そうですか……」
 お父さんは何も悪くないのに謝っていた。日頃は優しい人なんだろうなと思える感じだ。
「父は仕事の虫でした」
 愚痴を喜んで聞いてくれる人はそういない。言う方も決して楽しくない。なのに私は口が滑るのを止められない。気付けば見ず知らずの人にとりとめのない話を一方的にしていた。 
「男ですねぇ、貴女のお父さんは」
 目の前のお父さんは夫とは違った優しさがある。話し方や仕草がどこか父に似ていて、私が話すのを文句一つ言わず聞いていた。
「仕事に生きる男は私も理解できます。でも体を壊しては、元も子もありませんよね」
「確かにそうですね」私は頷いた。見た感じは同年代なのに、話の内容や考え方が一世代上の人間が言っているように聞こえて仕方がない。
「父は『実家を継いだ方が良かったのかな』とよくこぼしていました」
 私は外の景色を見た。父のいる病院が微か遠くに見える。
「本当なら父と乗りたかったんです。もう一度だけでいいので……」
私は、本人には面と向かって言えない言葉がこぼれた。まるで学生時分の友達に告白の練習をしているような気になった――。