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短編集『ホッとする話』

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 ゴンドラは水平線を割り、徐々にゴールが近付いてきた。
「ありがとう……、ございました」
 思わずお礼の言葉が出た。色々ととりとめのない話を聞いてくれて本当にありがたいと思ったからだ。メールや電話で夫と話をするよりもよほど温かく思えた。
「いえいえ、私こそ」私がそう言うと、葵ちゃんが膝の上から飛び下りて、私のお腹をさすった。
「あーちゃん、げんき。パパ、だーぶーぶ」
「まあ、葵ちゃん。ありがとうね」
 お腹の子供が喜んではしゃいでいる。彼女を仲間と認めたと叫んでいるようだ。
「胎動ですか?」
 お父さんも私の心が読めるのだろうか?胎動は外見ではわかりにくいものなのに、彼にはそれが見えているようだ。
「ええ、この子は私がさすらないと動かないのに……、不思議ですね」
 この親子から発せられる雰囲気は何だろうか?初めて会うのに懐かしいような、偶然が重なり続けている。もしやこの人たちは?否、そんな筈はない。私は考えている間にもゴンドラは確実に進んでいた。

「葵……さん」
「はい?」
 沈黙を破ったのはお父さんだ。私は葵ちゃんのかわいいほっぺをつついていた。  
「できますよ、必ず」
「何が、ですか?」
「お父さんとここに来ることですよ」そして私の疑問が確信に変わる口癖が聞こえた。

「そんな、気がしてならんのですよ」

これが幻でも私は構わない。父の言う通り、左側からゴンドラに乗り込んだ事で遠い昔に置き去りにした何かが見つかったような気がした。
「私も、そんな気がします――」
無意識に私は答えていた。