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短編集『ホッとする話』

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「行くよ、葵」
 娘は歩く気はない様子だ。私は葵を抱きかかえ階段を降りた。その先で身重の妻が私たちを迎えてくれた。この観覧車の出口は先が別れていて、たとえ相席になっても出口で一緒になることがない。今までもそうだった。大人の葵さんの姿はそれから園内でも見ることはなかった。
「どうでしたか?」
「ああ……」私は整理できていない頭のまま口を開いた
「あおいちゃん、いた」
「そう?葵ちゃんいたの」
「あーちゃん、いた」
妻は葵の説明をニコニコしながら聞いている。本当の事として聞いているかはわからないが、私はそのやり取りを横からボーッとして見ていた。 
「どうしたのですか?まるで誰かと会って来たような顔ですよ」
 私はなにも答えなかった。不思議なことにゴンドラの外からは相席した葵さんは見えなかったようだ。何故だかわからないが、以前相席になった時もそうだった。亡霊でも見たのだろうか?そんなはずはない。私と葵はさっき乗った「30番」のゴンドラで葵さんと同じ時を過ごした。それは間違いなく本当だ。
「あの……」
「なんですか?」
「僕……、店、継ぐよ」さっきの言葉が脳裏によみがえった。今まで頭の片隅にあった思い、本当は小さい頃から家を継ぐつもりでいた。だけどそれに頼らずに生きる姿を見せたい自分も同じようにあった。今まで誰に言われても動かなかった意思が、観覧車で出会った女性に動かされるとは不思議なものだ。
「収入は減るかもしれないけど、いいよね?」
「あなたがそう思われるのでしたら、私は、反対しませんわ」
 妻は私の告白を喜んで受け入れた。というよりも彼女はそれを望んでいる。口に出したことは一度もないが様子でわかる。
「お義父さん、喜びますよ」
「かもね」
 私たちは観覧車に背を向けて歩き始めた。
「また、何故そう思われたのですか?」
「葵が、そう言ってるような……」娘はご機嫌な様子だ。今度は妻のお腹にいる弟か妹に何やら話し掛けている。
「またまた、今日はおかしいですよ」
お互いに笑いあったあと、私と妻は全く同じタイミングでいつもの口癖が出た。

「そんな気がしてならんのだ」