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短編集『ホッとする話』

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十九 高嶺の花



 気になる人がいた。だけど僕には高嶺の花だった――。

 僕の席の右となりに座る佐山さんは、長い髪を書き上げると首もとにほくろが見える笑顔が素敵な人だ。
 しかし彼女には好きな人がいる。それも中学でも一番人気があると言われるサッカー部の大杉。彼は人当たりも良くて勉強も運動もできて、その上人を悪く言うのを聞いたことがない。この目立たない僕にさえ、気軽に声を掛けてくれるし、苦手な持久走の時だって大杉は僕を励ましてくれた。だから、あいつには到底及ばない。だから高嶺の花だったんだ。
 彼女のことが好きなのは僕だけじゃないことも知っている。そして彼女と僕にはクラスメートであること以外の接点なんてなく、声をかけることすらためらうほどの存在であることは間違いなかった。

 それでも僕は彼女の仕草が気になって、気付かれないようにいつも観察していた。それがストーカーみたいな行為であることはわかっているけど、届かないことは分かっていたのでそれ以上のことはしないし、隣にいるというだけで僕は満足だった――。