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短編集『ホッとする話』

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 それから武は家に帰ると、葉月が大学から帰ってくるのを待った。事情を説明すると二つ返事で納得し、
「それなら速くしないと」
と言って早速朝に高橋が車を止めていた道路脇に車を持っていった。するとそこには既に一台の車が止まっていた。見慣れた車は高橋のものではない。
「やあ」
と声を掛けたのは石垣さん家のご長男。同じく父から事情を聞いて仕事帰りに自分の車をそこに止めたのだった。

「いやあ、考えましたね?」
「そうなんじゃ」
 思い付いたアイデアというのは空いた場所に車を止めて、車庫がわりにこの場所を使う者を阻止してやろうということだった。次の自治会でこの場所をいずれは共同スペースにしようと考えているが、それまではこうしようではないかとあの時思い付いたのだ。
「止めてもいいんじゃから、こういう方法もアリじゃろ」
「確かに。まあ、早くここを変えんといかんですね。ずっとこうするわけにもいきませんから」
 二人が笑っているところで後ろからクラクションの音が聞こえた。ハンドルを握ったままの葉月だ。
「お父さん、笑ってないでちゃんと誘導してよ!」 
 初心者の葉月はまだ一人で縦列駐車ができない。二人がしたり顔で笑っているのにしびれを切らした顔を見てさらに笑った。