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短編集『ホッとする話』

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「んにゃろう」
 勝ち負けの話でいえば完敗だった。自分の土地ではないのにあたかもそこが自分の駐車場のように使っていることが悔しい。

「妙案、ないですか?」
 大きく息を吐いて武はさっき高橋が捨てたタバコを拾いつつ石垣に問い掛けた。
「うーん、止めていいわけではないのに止めている、それも車庫がわりに」石垣さんも苦虫を噛み潰したようにしかめっ面をした「本当にどうしたら、いいんやろか」
車の無くなった道路の真ん中で再び二人腕組みをして考えていると、後ろから車のエンジン音に気づき、慌ててさっきまで車のあった道路脇に退避した。

 二人が車の運転手をチラ見すると、後部座席に小さな子供を乗せたお母さんがハンドルを握っている。二人は道を空けたにもかかわらず、車は通り抜ける気配がなく運転手もこちらを見ているのがわかると二人は何かあっただろうかと同時に首をかしげた。
「すみませーん」運転席の窓が開くと声が聞こえた「ちょっとだけなんでココ止めてていいですか?」
 彼女の指先は、二人が立っているまさにその場所を示している。
 彼女は自分達を地域の役員とでも思ったのだろうか。それは別として二人は顔を見合わせると何を言わずとも同じ答えが頭に浮かび上がった。
「ちょっとくらいなら、いいんじゃないか?」
「あ、ありがとうございます。遅刻しかかってたんです」
 お母さん運転手はそう言うと二人の誘導で車を止めて、いそいそと近所の幼稚園の方へ走っていった。

   * * *

「これって、エエんじゃろか?」
 子どもの手を引いて幼稚園に小走りで去る親と子を見つめながら武がつぶやいた。
「まあ、ちょっとくらいなら」
「確かに、警察が取り締まるには難しいと言うし」
 さっきまで高橋が止めていたところにまた車が一台止まってしまった。周囲を見回して見ると、ここはごく一般的な住宅街である。近所に幼稚園があり、小さい商店もある。しかし、よく見たら駐車場というものがない。
「だから、ここに車を止める者がおるんじゃな」
「うむ。でも、止めてもいいんじゃろ?」
 石垣は何か思い付いた様子で武の顔を見た。
「どういうことだ?」
「あんたの家最近娘さんに二台目の軽を買うたじゃろ?」
 この場所にはもう一台くらいは止められそうなスペースがある。武は手をぱちんと叩いた。
「そういうことか!」
「ウチもせがれの車がある」
「なるほど」
 二人はにやりと笑うと、拾ったごみを片手にお互いの家に戻った。