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短編集『ホッとする話』

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 それから数日後、武は休日出勤の代休をもらい、地域の道路を掃除して回っていた。気ままな年金生活の石垣さんのご主人も加わりほうきを持って地域を歩いていると、出てくる話題はあの車のことだ。
 見ればイライラするから普段はそこを避けて歩いていたのだが、石垣さんのペースで歩いているとたまたまその通りに差し掛かり、道路脇に止まっている傷だらけの商用車を見て収まりかかっていた戦慄が再び沸き出した。

「あの車、いつもここに止まっておる」
「そうなんじゃ。ウチのもんが通報したけんど実質難しいって」
 昼間に見れば確かにそう見えなくもない。公道に出ているのはほんのタイヤ一つぶん。自治会の役員をつとめる石垣さんも悩みの種の一つであるのは様子を見れば間違いないようだ。

 車の前で二人で腕を組んで考えていると、後ろから歩きタバコの男が近づいてきた。朝の快適な空気を汚す煙に気づき二人が振り返ると、何食わぬ顔で止めてある車の扉に手を掛けた。車の持ち主である高橋その男だ。
 武と石垣は顔を見合わせた。どちらも思うところは同じだった。年長者の石垣の方が一つ頷いて
「ちょっと、高橋さん」
と声を掛けると
「なんだよ」
明らかに肩を張ったような返事が返ってきた。
「今から、お勤めですか?」
 石垣の問い掛けに一瞬の間が生まれた。武の目には、高橋にも自覚があることが分かっているように写った。
「ここはなんぼ止めたって捕まらないぜ。だって公道じゃないからな」
こちらが聞いていないのに思った通りの回答があった。それを聞くと石垣の眉が動くのが見えたが、武が止めようとする前に口が動いていた。
「取り締まる法がないからって、それは合法ということには、ならないじゃろう」
 敷地だから止めていいという決まりはない。でも石垣が言うことは決して間違っていない。
「だったら警察でもどこへでも通報しろよ、邪魔になってないからいいじゃないか」
 周囲に人がいれば立ち止まるであろう声量で返答したところで武は石垣を止めた。こちらは揉め事にしようとは考えてもいないから火消しに躍起になる。

「さ、仕事に行くか」
 高橋はくわえていたタバコを道路にポイ捨てし、逃げるように走り去って行った。暖気もせずに走るものだから白い煙と整備をしていない品のない音を散らして行く。二人は排気ガスの煙に巻かれて悔しさを覚えずにはいられなかった。