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短編集『ホッとする話』

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 私は貼り付いた封筒をゆっくりと剥がした。勝手な事だとは思わなかった、それは自分が書いた『おやくそくカード』だからだ。七年の間誰にも気付かれずにここでずっと私が来るのを待っていたのだ――。

 そして私は封を開けた。残っていたのは四枚、あの時のまま古くも新しくもなっていない。そして紙にはこう書いている。


  おやくそくカード
   わたし、いながきまいこは

      ――――――――――――
    
   をやくそくします。


 四年生の自分が書いた拙い字。思わず吹き出してしまいそうだ。一枚、そしてもう一枚捲ると最後の一枚を見て私の手が金縛りにかかったように手が止まった。一つだけ約束が書かれているのだ。 
 カードの空欄、兄ちゃんの字で

   わがままはいいけど兄ちゃんと
   仲良くすること

と書いてあるのだ。
「兄ちゃん……」
 あの時、兄ちゃんはこのカードでケンカを収めたかったのだ。そういえばケンカのあと兄ちゃんはいつも私になぞなぞを出したりして間を置いて私の気持ちを鎮めていた。だからあの時も、私にこのカードを探させることで頭を冷やさせて……。なのに、なのに私は兄ちゃんの気持ちに気付かずあんなこと言ってまたケンカになって――。
 私はもう一度文面を読み返した。「わがままはいいけど」って書いてある。ケンカになっても私のことを認めてくれているのだ、世話を焼かせてばかりで、その上文句まで言う妹を――。
 鉛筆で書かれた優しく、丁寧な字。私はそれを見て胸にこみ上げて来るものを私は抑えることができず、境内にいることを忘れ、他の生徒が通りかかるかもしれないのに、そんなことは気にならずに目から涙がポロポロと流れた。あんなケンカした後なのにそれでも優しくできる兄ちゃんがとてもいとおしく思い、いてもたってもいられなくなった。この時間はまだ仕事中であるのはわかっていたけど、どうしても声が聞きたくなって止めた自転車に駆け戻り携帯電話を手に取った。