短編集『ホッとする話』
今日は1限から授業がある。天気も回復し、今日は気持ちのいい暑い一日になりそうだ――。
小夜は今までほったらかしにした携帯を開けた。一晩のうちに夏実や亮太郎からメールが数件入っている。
「授業来てなかったけど、だいじょぶ?」
部屋の時計を見ると既に1限の授業は始まっている。心配してメールをくれたことが少し嬉しい。
「大丈夫だよ。だけど、今日は授業には出ないよ♪」
小夜はすぐに返信を入れた。今から行けば間に合うだろう。けれど、授業中にやり取りするくらいの講義を一回くらい抜けてもいいかな、と小夜は初めて思った。それよりも大切な、かつやっておきたいことが、あるから。
小夜は携帯をベッドの上に投げ置いて、空気の入れ換えをするのに窓を開けた。外は昨日の雷雨が嘘のように上がっていて、夏らしい強い陽射しが小夜の顔に降り注いだ。
「さぁ、今日はヤルぞぉ!」
小夜は部屋を埋めている洗濯物ののれんを外に出し、掃除機のスイッチを入れた。なぜだか今日は気分がいい。
* * *
小夜の部屋は、春にここへ来た時くらいにきれいになった。今までの気持ちもきれいに掃除できたような気がした。
「さぁ、て」
部屋の真ん中に残った段ボール。中には丸々と甘い水を含んだスイカが小夜を待っている。
小夜はベッドの携帯を拾い上げ、友達にメールを打った。授業はもうすぐ2限が終わる。
「授業終わったらうちに遊びにおいでよ。美味しいもの用意してるから」
小夜はそうメールを入れてスイカを半分に切った。
『元気にしてくれるもの』 おわり
作品名:短編集『ホッとする話』 作家名:八馬八朔