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短編集『ホッとする話』

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六 友だち 26.9.9



 年の明けたまだまだ寒い時期の日曜の昼下がり。朱音は取り込んだ洗濯物を部屋でたたんでいると、ふすまの向こうから声が漏れて聞こえてきた。

「Hello, Amm……、 this is Yuri Kuraizumi.」

 朱音は聞こえてくる英語にハッとして耳をふすまの向こうに傾けた。隣の居間にある電話で話しているのは妹の悠里である。
 11歳年下で小学六年生の悠里が英語を話すのに違和感がなかった。というのも朱音たちきょうだいは日系二世のアメリカ人である父をもつクォーターで、朱音自身も幼少の頃はアメリカで英語しかない環境で育ってきた。

「Yes, amm……is there Sarah?」

 しかし、悠里は日本生まれの日本育ち、離婚して離ればなれになった日系二世の父とも触れあう機会は少なく、基本的に日本語のみの環境で育っているが、朱音が事あるごとに妹に英語で話を続けることで一応に理解ができる程度まで教えてきた。決して流暢ではないけど妹の英語は電話の向こうの人物に通じているようだ。
 悠里の声がしばらく止まった。話の内容から推測して、悠里はアメリカ人と日本人とのハーフのクラスメートであるサラの家に電話をして、電話口に出た父親にサラを呼ぶように言ったのだろう。

「Hello, this is Yuri.」

 しばらくして話し方が少し柔らかくなった。サラという名前の同級生が電話口に出たのだろう。
 妹の話では、学校では今まさに電話をしているサラというのはアメリカ人の父と日本人の母との間の子で、彼女をはじめとしたグループに除け者にされていると聞いている。なのにその相手に悠里は直接電話をしている。朱音はその意図がわからず、自然と洗濯物をたたむ手が止まり耳に神経を集中させて、襖の向こうから漏れてくる妹の声を聞いていた。

「Do you have a time to meet n' talk?」
「I'll be at Midori park, okay?」
「yeah, see you ……」

 受話器を置く音を確認して朱音は何事もなかったように動き出した。すると、部屋のふすまが開きそこにはさっきまで電話をしていた悠里が立っている――。
「お姉ちゃん!」
眼鏡の奥に見える妹の目が大きく開かれている。その顔を見ただけでさっきの電話がどういう心境でかけたものかが何となくうかがえる。
「どうしたん?」
「悠里は今から友達のところへ行ってくるね」
「そう、暗くなるまでには帰って来なさいよ」
朱音は何も聞いていないふりをして淡々と答えた。どうやら悟られていないみたいだ。
「はーい」
 悠里は返事をすると居間の椅子にかけていた上着を羽織り家を飛び出した。鉄の階段を降りる足音がカンカンと周囲に響きわたった。