短編集『ホッとする話』
一行が都についたのは出発から10日を過ぎた日だった。尭は真っ先に主君である連寿王と面会した。尭は娘の麗麗に案内されて寿王の寝室へ入ることを許された。
「尭よ。遠方からご苦労だった、西方の状況を報告せい」
「はい、今のところ厳しいですが何とか治めることができていると思います」
「そうか。だがな、尭には伝えておくべきことがあるのだ」
「はい、何でしょうか」
尭は頭を上げた。
「西方では反乱の計画があって一筋縄では行かないようだ。尭は気付かなかったか」
尭は主君の顔をじっと見たまま動けなかった。自分の任務はまだ完遂していない、それに相棒の李凱を西方に残したままだ。しかし寿王はそんな尭の思っていることを分かっているかのように話を続ける。
「お前はここに残るのが賢明だ。お前を必要とする時と人がいる。西方には代わりの者を出す」
「では、李凱は……」
「ヤツには注意をしておくがよい、あいつは優秀だが人を陥れるところがある。そして凱ではなくお前を呼んだことの意味をそれをゆめゆめ忘れるでないぞ、よいな」
「は、ありがとうございます――」
尭は深々と挨拶をして部屋を後にすると、後ろから自分の背中を叩く者がいた。誰かと思い振り返ると、娘の麗麗である。劉尭の顔を見て円らな瞳をぱちくりさせて微笑んでいる。
「劉尭さま」
「麗麗さま」尭もつられて微笑み返した。
「長旅、お疲れ様でした。麗麗は尭さまが戻ってこられるのをお待ちしておりました」
尭はそう言われて見つめられると呪文にかかったかのように固まってしまい、次の言葉がすぐに出てこない。そこで目線を逸らすと、窓の向こうに池のある庭が目に入った。
「そうだ、よかったら庭に行きませんか」
「はい――」
そう言って尭は庭へと続く廊下を歩くと麗麗もその後を追って歩き出した。
作品名:短編集『ホッとする話』 作家名:八馬八朔