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短編集『ホッとする話』

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 次の日晶子は近くの――、といってももちろん車が必要な距離であるがファミレスで娘の部活のママたちが集まる昼食会という名の井戸端会議に参加し、テーブルを囲んで日常のああでもない、こうでもない話をしていた。
 主婦の話題はいつだって大きく三つ、一つは生活のことと、二つは子どものこと。そして三つ目は旦那の愚痴。
 そんな中、一人のママが三つ目の話題を切り出してきたので、晶子を含む3人の主婦たちは興味深げに耳を立てた。
「こないだダンナの迎えに言ったのよ、そしたら――」
「うんうん……」頷く3人。
「乗った途端にすぐ寝るのよ。どう思う?こっちは家事切り上げて迎えに来てやったというのに」
「ひどいわねえ」
「こっちの苦労を分かってないのよ」
 一様に晶子も頷きはするが、納得は出来なかった。確かに迎えに行くのに家事は切り盛りしなければならない、だけど夫は幸仁は自分の運転で寝ることなどありえないし、むしろ寝ていても起きるくらいだ。
「私も自分の運転でダンナを寝かせてみたいわ」
 食後の紅茶を飲みながら晶子はふと呟いた。独り言のように言ったその言葉をママたちはしっかり聞いていて、しばらくの沈黙のあと3人は小さく笑い出した。
「そうよねぇ、なんと言っても相手はプロの運転士さんだからねぇ」
「そうそう。実現は難しいんじゃない?」
「でも、晶子さんの運転はそんなに下手とは思わないけど……」
 それぞれがフォローのコメントを入れてくれるがどれも晶子の気持ちにぴたっとくるものがない。しかし、今日の話題で晶子の中で一つの目標みたいなものが出来た。

「自分の運転で夫を寝かせてみたい」

 それは出来ないことなのだろうか?それが出来ればハンドルを握るたびに緊張することもイライラすることも無くなるだろうし、夫も少しは自分を見直すだろう。
 技術を磨けば決して出来ないことではない。晶子はそう思うと自分の中でブレーキがかからず、早速自分の中で実現に向けたくなり、一同に意見を求めると次々と提案が湧き食卓は再びにぎやかになった――。