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(略)探偵

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File3:密室(略)殺人


「つまりはこういうことですか。」
黒いコートに付いた雪を払いながら、探偵は居並んだ人物を見回した。
居並ぶ人間は五人。どの人物も、部屋の中は暖房が効いているにも拘らず、まるで雪の降る外に出されているかのように、がたがたと震えている。
「朝起きたら、この男性が死んでいた。誰がやったのかわからない。屋敷の外には足跡すらない。と。」
探偵は足元で死んでいる恰幅の良い男性をチラリと眺めた後、「ここは暖かいですねえ」とコートを脱いだ。
脱いだコートは、そのまま後ろに控えていた警部に渡す。まるでハンガーのような扱いだ。
そして探偵は、一番皆が恐れていた事を口にした。
コツコツと鳴る靴の音をメトロノーム代わりに、まるで歌うような口調で。
「じゃあこの人、自殺したんでしょう。」
「ちょっと!待ってくださいよ。」
「?どうしました?」
探偵は、警部の剣幕に、ふわりと首をかしげる。
「警部、血圧がまた上がりますよ。」
「自殺はありえませんよ!だってこの人は、背中を刺されているんです!」
「どこかに包丁を固定して、そこに向かって背中を押し付ければ良いでしょう?警部?支えるものは山ほどあるじゃないですか。」
ほら、と探偵が指差したのは、窓の外。吹きすさぶ雪だった。
「あれで支えて、死ねば良い。そこに雪解けが残っている。」
慌てて探偵の指差した辺りを見やる面々を見て、探偵は満足そうにようやく立ち止まった。
「では警部、私はこれで。コートを。」
探偵の言葉に、ハンガーの代わりにされていた警部は丁寧にコートを差し出す。
「どうぞ。」
「どうも…なんです、これ?」
出口に向かって歩きながら颯爽とコートに袖を通した所で、探偵が警部を振り返った。
視線の先は、黒いコートについた、大量の白い毛。観察するに、どうやら動物のもののようだ。
「は、私は家で白猫を飼っていまして。」
「…警部、最近やりますね。もしかして私がお嫌いですか?」
「とんでもない。」
そう答える警部の表情は、半分笑っているように見えた。
猫の毛だらけのコートをまとって、それでも辛抱強く優雅な笑顔を見せてから、探偵は来た時と同じように雪の向こうへ消えていったのだった。

作品名:(略)探偵 作家名:雪崩