(略)探偵
File2:放火(略)殺人
「簡単なことですよ、ケイブ。」
無機質な部屋の中に、男の声が響いた。
「どういうことですかね、探偵殿。」
「ケイブ。」
縋り付くような眼差しを向ける警部に、探偵は優しい笑顔を向けた。ただ警部、と呼ぶ発音にはどこか"軽侮"の響きがある。
「少しだけ考えれば、すぐ解る事なんですよ。」
煙草にに火を点け、彼は歌うようにいう。
「老人ホームで謎の火事。焼死者二十名。しかし、逃げた職員、老人には、火傷一つ無く、更に"必ず事件性を帯びている"のならば、導かれる結論は限られてくるのです。」
「それで、その結論とは?」
「まあ、焦らずに。」
探偵はそういうと、灰皿を探した。だが見つからず、ポケットから携帯灰皿を取り出して、灰を落とす。
それを見て、警部もピースに火をつけた。
さらに、後手に隠し持っていた灰皿を机に載せて灰を落とす。
「……あまり、虐めないで下さいよ。」
辛抱強い笑顔で探偵は煙草をもみ消した。
「さて、謎解きの時間です。」
立ち上がると、探偵はゆっくりと歩き始めた。無機質に、威圧的に響く靴音に、警部は、いつもなぜか自分が被疑者になったような気分になる。
「さて――謎の老人ホーム火災事件。死亡した老人たちですが、いずれも超高額の保険金が掛けられていました。要するに、保険金大量殺人事件ですね。老人の家族は、保険金目当てで老人をホームに入れる。一定の人数が集まったら、一気に事故に見せかけて始末します。助けられた老人たちは、カモフラージュ用の入所者でしょう。まあ、真実の程はお調べください。探偵の仕事は、秘密を暴くこと。それではさようなら。」
言うだけ言うと、にこやかに探偵はそのままドアから風のように去っていく。
残された警部は、呆然とするだけだった。