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(略)探偵

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File1:ダイイング(略)メッセージ


無機質な白い部屋に、五人の人間がいた。
否、正確には一人と四人の人間がいた。男が一人、女が二人と男が二人。
その一人は、四人と向き合っている。この真夏にスーツを着て、それでも涼しげに、汗一つ掻いていない。
対照に、男と向き合う四人は一様に忙しそうに汗を拭っていた。青い顔で俯いている。 
そんな四人の男女を見廻して、男はにこやかに口を開いた。
「さて――。」
男は魔法のように懐から二枚の写真を取り出した。それらを、背後のホワイトボードに貼り付ける。
一枚は一人の老人が頭から血を流して倒れている写真。彼の右腕は不自然に伸びている。
もう一枚は、彼の右手付近を大写しにしたもの。床に血文字で「あ」と書かれている。
「本日お集まり戴いた理由は各自解っていらっしゃると思います。」
ボードから向き直り、男は一番最初に貼った写真を示した。
「先日、一人の老人が殺されました。皆さんにはその容疑がかかっています。殺人を行う理由は、それぞれにあるのでしょう。」
そこで一旦言葉を切って、男は彼らの一人一人に友好的な笑顔を送る。だが、誰一人として笑顔を返す者はいない。
「さて、この哀れな老人は死に臨む際に、実に奇妙な行動をとりました。これです。」
男が二番目の写真を示す。老人の指先と、血文字の「あ」。
「彼の遺したダイイング・メッセージ。これを解くのが、今回の僕の役目なのです。」
カツリ、男は部屋の中をゆっくり歩き始めた。威圧するようにその音は四人を取り囲む。
「死の直前、彼は必死に考えたのでしょう。一文字を書くのが限界の体力。己は何を書き残すべきか。そして彼は閃いた。そして書き残したのです。どうか解いてくれと。願いを込めて。」
カツン、音が止んだ。探偵は笑顔のまま、四人のうち一番若い男を振り返った。
「貴方。”イノウエ”さんと仰るそうですね。貴方が犯人なんじゃありませんか?」

作品名:(略)探偵 作家名:雪崩