紺碧を待つ 続・神末家綺談3
「伊吹・・・」
悲しい。悔しい。目の前の無垢な子どもの人生を縛る、かの血に受け継がれる古い因習がうらめしい。その副産物である己自身も。
「・・・伊吹。あまり俺に、情をうつすな」
「え・・・?」
起き上がった瑞は、真正面から伊吹を見つめた。伊吹の無垢な表情が、少しずつゆがんでいく。
「・・・どういう意味?」
「俺を惜しむな。俺を望むな」
胸が痛いなんて、この俺が。
こんな厳しい言葉を伊吹にかけてしまう自分が恨めしい。だけど止められない。
これまで感じたことのない苛立ちや不安、そして戸惑い。それは、伊吹と心を交わせば交わすほどに大きくなる。
「俺の願いを、穂積は叶えてくれると言った」
「うん・・・」
「その願いが叶ったら、俺は」
その先に待つ未来は。
「俺は、死別よりもつらい別れを、おまえに強いることになる」
そう。死に別れるよりもつらいことになる。瑞はそれを知っている。それを望んでいる。だけど伊吹は知らない。いつか瑞がいなくなり、それは死別という、この世でもっともつらい別れより、もっと、もっと、悲しい結果をもたらすということを。
「瑞と・・・仲良くするなって、こと?」
伊吹の瞳が揺れている。
「・・・おまえのために言っている」
「なにそれ・・・」
伊吹の戸惑いに揺れる瞳は、みるみるうちに怒りへと変わっていく。
「なんでそんな勝手なこと言うんだよ・・・」
「伊吹・・・」
震える指先を握りこんだ拳が、瑞の肩に飛んでくる。
作品名:紺碧を待つ 続・神末家綺談3 作家名:ひなた眞白