紺碧を待つ 続・神末家綺談3
伊吹を楽しませたくて、喜ばせたくて、瑞は京都の楽しいプランを提案する。
「佐里にみやげも買わないと。百貨店で口紅でも・・・」
「ばあちゃんは、漬物とかのがイイと思うけど。ほら、あじゃり餅とかも好きだよ」
「ばかだな伊吹。女心をわかってない。年をとろうが孫がいようが、女はいつまでも女。着飾ってやるのは男の義務だぞ」
「そういうのいいから・・・。で、他には?どうする?」
「服見て、靴も見たいな」
「うん、買い物だね」
「そんで美容院で髪も染めて・・・」
「それは帰ったら、俺が白髪染めでやったげるよ」
白髪染めはよせ、と瑞は思わず噴出す。笑った瑞を見て、伊吹が安堵したように眉を下げるのがわかって、やはり気を遣わせていたようだと瑞は反省する。
「瑞、ごめんね」
唐突に謝罪される。
「もう二度と、おまえに何かを命じたりしない。絶対に」
あの夜の厳命を、伊吹は悔いているのだ。ついてくるな、と命じた自分を。
あれは伊吹は悪くない。そう命じさせたのは、覚悟を決めることのできない瑞の、無神経で弱虫な言葉だったのだから。
「おまえと対等でいるって決めたのに・・・。あんなふうに命じた自分が、すごく恥ずかしくて嫌だったんだ」
「・・・伊吹、」
「情を移すなって瑞は言うけど、無理だよ。俺はもう瑞に友情感じてるんだ」
どんな未来が待っていても、おまえと生きると決めた。
伊吹は、あの夜そう言った。その言葉が、偽りでも綺麗ごとでもないことは、目を見れば分かった。
「拒絶されても遠ざけられても、俺はこうやって・・・これからもおまえと一緒に、いろんなもの見て、一緒に笑って、一緒に苦しんで、いく。もう決めたから、迷わない」
穂積によく似た切れ長の瞳は、まっすぐに瑞を見据えて決してぶれない。
「・・・わか、った」
勢いに押され、瑞は思わず答えていた。伊吹の言葉には、躊躇やごまかしを許さない強さがあった。
作品名:紺碧を待つ 続・神末家綺談3 作家名:ひなた眞白