紺碧を待つ 続・神末家綺談3
「そっか、うん!よし」
満足そうに笑う伊吹を見て、瑞も覚悟を決めた。
「・・・伊吹、」
「うん?」
「おまえの質問に、答えられそうだ。今なら」
何をしているとき、楽しい?嬉しい?
「おまえがそうやって笑ってると、俺は楽しい。嬉しいと、思う」
不思議だなと、言葉を紡ぎながら瑞は思う。こんな素直に自分の思いを吐き出せたのは、初めてだ。皮肉もごまかしも必要ない。伊吹は、きっと真摯に受け止めてくれるだろうから。
「だから、伊吹に笑っていてほしい。いつか別れが来て・・・死別よりもつらく悲しい未来を迎えたそのときも・・・笑っていて」
酷なことを、伊吹に強いていると瑞は思う。わかっている。
悲しむ伊吹を見たくない。むせび泣く伊吹を見るのは怖い。
だけど、笑っていてくれるのなら。
こんなに幸福な今のあとに、間違いなくやってくる未来はもう、怖いものではなくなるから。
「・・・頼む、伊吹」
いつか、思い知る日は絶対に来る。伊吹に情を移したことを後悔する日は絶対に来る。
それでも、いい。そのときに伊吹の笑顔を見られたら、悔いなく別れを受け入れられる。そんな気がするから。
「・・・瑞、わかったよ」
別れと聞き、伊吹の表情は一瞬歪んだが、顔を上げた彼は、笑っていた。
「瑞がそれを望んでるなら、俺笑ってるよ。お別れがどんなものなのかなんて、いまはわかんないけどさ・・・大丈夫。約束する」
だから行こう、と伊吹が駆け出す。
「今日は思いっきり遊ぶんだ!」
その背中の眩しさに目をすがめ、瑞は初めて、伊吹のために祈る。
いつか来るその別れが、少しでも遠いものであるようにと。
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作品名:紺碧を待つ 続・神末家綺談3 作家名:ひなた眞白