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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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紺碧を待つ 続・神末家綺談3

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旅館を経営していた頃に売りだったという露天風呂は、白くとろみのある湯で満たされていた。ひとはもう住んでいないが、依頼人が調査に来る穂積らのために管理の手をいれてくれたとのことだ。

「紫暮さん、怒っていますか」
「まあね」
「自分でも、よく生きて出られたなって・・・思います」

湯船に浸かって伊吹がとなりで呟くように語り始めるのを、紫暮は黙って聞く。不安そうでまだ幼さの残る横顔からは想像もつかない。この少年が、あの廊下で招魂を行い、生還するほどの強い力を持つ陰陽師だということは。

「その無鉄砲さはいかがなものかな」

危険を冒して廊下に立ち入るなんて。結果オーライだから、こうしてのんびり風呂に浸かっていられるわけだが、伊吹は今頃、床下に引きずり込まれていたかもしれないのだ。

「はい、反省しています・・・」
「お説教は明日お役目様からたっぷりもらうだろうけれど、今後は気をつけてなくてはいけないよ。慎重なきみらしくもない・・・」

伊吹は慎重で、どちらかといえば臆病なほうだと思う。自信が持てずにいる彼を駆り立てたものは、何だったのだろうか。

「瑞と・・・喧嘩して、それで咄嗟に飛び出したんです」

ばつが悪そうに伊吹が答える。
瑞はといえば、現在穂積と二人で調査の再検討を行っている。伊吹が持ち帰ったという短刀も含めて。

「喧嘩、ねえ」

おそらくただの喧嘩ではないだろうと紫暮は予測する。これまでの幼稚な言い争いのようなたぐいではなかったはずだ。伊吹も、そして瑞も、互いに互いの目を見ようとしないのだから。

「それにしても・・・よく一人で、戻って来られたね。しかも手がかりまで。驚いているよ、正直」

畏怖と尊敬の念をこめ、紫暮は言った。

「もう無我夢中でした・・・」

招魂は、難しいとされる呪法だ。魂そのものを呼び寄せるため、穂積クラスの術者ならともかく、紫暮がやっても成功できたかどうか。伊吹は幼いながら、資質は十分といったところか。恐怖とパニックにのまれずに集中できる精神力。冷静に状況を見極め、正しいことを選択できる判断力。紫暮は改めて敬服する。歴代最強と言われる穂積の跡目は、こんなに幼いうちから力を発揮しているのだ。