紺碧を待つ 続・神末家綺談3
伊吹は駆け出した。どちらの扉でもいい。とにかくここから出る。
「・・・!」
目指す向こうから光がもれた。扉が少しずつ開いていく。
(あの、女のヒトだ)
先ほどの女性が、伊吹を導くように扉を開いていく。禍々しさを振り払うように扉を蹴り明け外に出た。そこには屋敷のごく普通の風景が広がっている。
「!」
大きな音をたて、伊吹の背中で扉が再び閉まる。
ここへ戻ってはいけない、わたしのようになってはいけない。彼女のそんな無言の声が、伊吹には聞こえた。
ゴトン、
扉の前に、何かが落ちてきた。
「これ・・・何?」
30センチほどの、錆びた金属器。短刀というのだろうか。柄の部分にはくすんでしまってはいるが、精巧な細工が施されている。
「・・・これ、」
これも、彼女が伊吹に託したのだろうか。廊下に巣食う闇を振り払うための手がかり。
(必ず、)
伊吹は短刀を拾い上げて瞑目する。
必ずお役目様が、あなたたちの魂を安らかな場所へ届けてくれるから。
あと少しだけ、待っていて。
緊張の糸が披露とともに切れ、伊吹はその場に倒れこんだ。
作品名:紺碧を待つ 続・神末家綺談3 作家名:ひなた眞白