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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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紺碧を待つ 続・神末家綺談3

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見えない何かが、暗闇に充満して伊吹を押しつぶしてくるような圧迫感。そして。

「うわ!」

凍ったように冷たい指先が、伊吹の剥き出しの足首を掴んだ。その咄嗟のできごとに身体が反応できない。引きずられるようにぬかるみに尻餅をついた伊吹に、濃い血の匂いがまとわりつく。

「このっ・・・!」

離れない。ぎりりと爪をたてて足首をひっぱるその手は、伊吹を血溜りの中へ引きずり込もうとしているのがはっきりとわかった。足首を掴む手は、異様に大きい。これが、これまで幾多の人間を床下へ引きずりこんできた何かなのだろう。抵抗できない猛烈な力だった。こちらの意思になど少しも配慮をしない、暴力的で傲慢な力。

伊吹は腹が立ってきた。この理不尽さと身勝手さに。どんな神様だかしらないが、こんな身勝手で邪悪なものには、絶対に屈したくないと強く思う。

「離せッ!」

自由なほうの足で、冷たい手を思いっきり蹴飛ばした。手が離れた一瞬の隙をついて、伊吹は素早く立ち上がる。右も左もわからない暗闇の中に立ち上がり、床下から迫ってくる気配に集中する。
バシャバシャと水音。九字を切っていては間に合わないと判断し、伊吹は近づいてくる気配めがけて、鋭く指笛を鳴らした。

ピィィィィッ!

音には邪を祓う力がある。ひとは古来より弓の弦を鳴らし、魔を祓ってきた。即席の方法だったが、これには効果があった。音に驚いたかのようにひときわ大きな水音が聞こえ、気配は去った。

(消えた。でも消滅したわけじゃない。闇の中に今も潜んでいる・・・)

血の匂いと、ぬかるみの感触が消え、足元には堅い床を感じる。暗闇は変わらないが、先ほどの禍々しさは消えうせている。