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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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紺碧を待つ 神末家綺談3

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「・・・俺も、すべてをわかっているわけじゃない。でも、ある程度のことは予測がついている。この屋敷の敷地内に、須丸家が管理している書庫があるのを知っているかい?」

それは須丸文庫と呼ばれている。一族の機密を記した膨大な記録を収めた書庫で、一般人は当然のことながら、一族の者でも特別な許可をもらわねば閲覧できないものだった。世に出れば、日本の歴史がひっくり返ると、そう聞いたことがある。

「古文書から呪文書、歴代のお役目の日記や書簡・・・その量は膨大で把握仕切れていない。書を収めた空間、文字に至るまでに呪(しゅ)がかけられており、書を読むに値しないとみなされたものには決して読めないんだ。逆に資格ありと認められた者は、膨大な資料の中から、知りたいことを探し出せるといわれている。俺はそこで、幾つか式神に関する記述を見つけたことがある。そこから推測することしかできなかったよ。お役目の血を引くきみになら、読めるのではないかな」
「わかりました」

まだ小学生の自分に、小難しい書物が読めるのかどうかはわからないけれど。
瑞のことを知れる、それだけの資質が自分にあるのならば・・・。

「きみは瑞を、ただの式とは思っていないのだね」
「え?」
「わかってやりたいと、そう言ったから」

微笑まれ、少し気恥ずかしくなる。池の鯉に視線をやってごまかしながら、伊吹は答えた。

「・・・俺はあいつと、主と式なんていう関係じゃ嫌なんです。瑞は腹が立つけど優しいとこもあるから・・・俺、あいつのことわかりたい」

お門違いだ、傲慢だと、瑞は笑うだろうけれど。

「幸せ者だな、あいつ」
「え?」
「二代に渡り、よい主にめぐり合えたのだから」
「・・・俺は、だめです。じいちゃんのようには振舞えない。あんなに大きな力もない。瑞の主たる資格は、ないんです」

夕日が水面を映しこむ。どこかで鯉がはねる音がした。

「それでいいんだ」

紫暮が再び、パンくずを池に放りながら言った。

「己の弱さを知り、力量を測れる者は強い。きみはよいお役目になると、俺は思う」

優しい声と、慈しむような表情に、伊吹は無性に泣きたくなった。

「瑞もきっと、そう思っているよ」

日が暮れていくのを、二人は黙って眺めた。